はじめに
このSSは、PBeM「QUOVADIS〜イベルカーツ戦記〜」内の「士官大学雑談室」の記事、およびPBeM参加者によるIRCチャットの内容を元に、シン・イワハラのプレイヤーことハゲタカが製作したものです。
したがって、一部のキャラだけにスポットが当たっていたり、プレイヤーの意図しない形でキャラクターが取り扱われていたりしていると思います。
が、これは一参加者が勝手に作ったプライベート・アクションであり、ゲームにおける正式な記録とはなりません。故に、上記の点につきましては参加者の皆様にはご了承いただきたく存じます。

ということを踏まえた上で、まずは極めて主観的な(笑)登場人物紹介をご覧ください。



登場人物紹介

アデル・シャラハー
シャプトゥーラー出身。密かに酒飲みだったり好色の噂が流れたりしているが(笑)、折り目正しく真面目な青年。その後、帰国命令に従い卒業を前にしてシャプトゥーラーに戻る。

オブリー・ロッジェス
ザーディッシュ出身。士官大学教官。性格は昔気質の軍人で教官としてのプライドを持ち、全てに対して厳しいが、生徒思いな一面もある・・・以上、土星版QUOVADISの説明書そのまんま(笑)。NPCである。

カレア・エルビッシュ
ザーディッシュ出身。色々とアレな人が多い(笑)女性士官の中では数少ない正統派か。お酒が飲めないので今回はあまり出番がない。

コウ・ウラン
ケネスリード出身。帰国命令に従わず残留し、無国籍となる。その決意表明のシーンにだけ登場(笑)。その後、イブコーア士官大学預かりの身となる。

シン・イワハラ
マジェス出身。ウェイターもすればバーテンもやる宴会の幹事役。しかし酒飲みである。卒業後、任官初日にマジェス軍内で暴力事件を起こし、除籍。ザーディッシュに移籍するなど、最近かなりトラブルメーカー。このSSはシンのプレイヤーが書いたので彼の出番多いです。ご容赦を。

セシリア・ヴェルトール
ツァルスクレブト出身。佐●理さんな人。あ、一言で紹介が済んでしまった。あははー(笑)。卒業後はツァルスクレブトのイブコーア士官らの艦隊司令に。曰く「シーマ・ガ●ハウ艦隊」(ぉ

タカヒロ・ナナセ
ツァルスクレブト出身。大人しい性格が災いしてか、今回一番の受難者。いきなり酔い潰されるわ、マーリアには熱烈にアタックされ続けるわと災難続き。マーリアのツァルスクレブト亡命で今後さらなるトラブルに巻き込まれることが予想される。ご愁傷様。

マァル・ミテレス
マジェス出身。マーリアとは幼なじみらしい。亡命の根回しから膝枕シーンのパパラッチ(笑)まで、その行動はどことなく根っからの情報士官。やや感情的になりやすい傾向。いぢめっ子でいぢわるだが(笑)、さっぱりとして気のいい人。209号室ドア破壊事件の犯人(笑)。

マーリア・ヴァン・シュトルム
ケネスリード出身。しかし、帰国命令が出るや否やツァルスクレブトに亡命。タカヒロ・ナナセ候補生に一目惚れ中。直情的な行動が多いせいでトラブルメーカーである。髪型は必殺の右横ポニーテール、しかしお子さま体型である(言うと殺される(笑))。だが、体型以上に行動が子供っぽいのは気のせいか(笑)。シリアスなときは真面目だけど・・・

ユリア・フィリス
ブルト=コッホ出身。真面目でしっかり者、世話焼きな性格。よくできた女性なのに、シンやアデルを遙かに上回る士官大学最強の酒豪である(笑)。しかも常飲で部屋にはワインの備蓄が絶えない。帰国命令に従わず、ミテレスの手引きでマジェスに亡命する。が、ドアを壊されたことではミテレスをしっかり追及中である(笑)

レイザー=K=ホープ
ザーディッシュ出身。一度顔を出した後、一休みしに戻っていく。その際ケーキと紅茶を差し入れにもってくるが、一番喜ばれたのは香り付けのブランデーだったという(笑)。飲まないのに、なぜか酒類の備蓄も豊富。

レナード・ストリングフェロー
ザーディッシュ出身。士官候補生を率いてブルト=コッホの反乱部隊を撃破した、特務艦隊のリーダー。しかし今回はシャンペンをかけられるためだけに登場した(笑)。

スピリタス
登場人物ではなく、酒である(笑)。蒸留を繰り返すこと13回、そのアルコール度数は市販の消毒液を上回る90%を誇る。現実に存在する。(たしか)ポルトガル産。劇中ではタカヒロやマーリアを撃沈している。一口だけ(ホントに一口)飲んだことありますが、唇や舌が一瞬冷たくなります。その後灼熱。

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士官候補生日記――特別任務祝賀パーティ――

ブルト=コッホの追撃艦隊を見事撃破し、ツァルスクレブト艦隊救出任務を果たした士官候補生達。
帰港した候補生達をロッジェスが迎えていた。
「よくやった。実際、お前達がこれほどやれるとは思っていなかった。ブラウン提督の言うとおり、今回の成功はお前達皆のチームワークによるものだ。まぁ、実際よくやったよ。今日はゆっくり休め。明日からはまたしごくぞ。」
そう言って立ち去っていくロッジェスであったが、その顔には普段見せることのない笑みがこぼれていた。
初陣の興奮と勝利の余韻が残る中、士官候補生達は三々五々、自室へと戻っていく。
そんな中、シンはロッジェスを呼び止めた。
「どうした、シン・イワハラ候補生」
「教官、実は、出撃前にシャンペンを冷やして置いたのです。"許可"を頂きたいのですが…」


2時間ほどして、居住区画内に放送が流れた。
「本日出撃した士官候補生にお知らせします。ただいまより、談話室にてイブコーア士官大学艦隊初陣勝利および全員生還を祝して、祝勝会を開催したいと思います。会場には簡単な料理と各種ドリンクを用意してあります。皆さん奮ってご参加ください。なお、食料・酒類の備蓄がある方は持ち込み歓迎です。また、参加者は雑巾かモップを持参してください。もう一度繰り返します……」
「宴会とは、またお祭り好きな人がいたものだ。まあ、私も好きですが…」
呟くアデルの手には、モップが握られていた」
「しかし、モップか雑巾とはいったいどういうことだ? ……ん?」
アデルの視界を、シャンペンのボトルを抱えたシンが横切った。
「なるほど…それでモップですか」
アデルは、納得した。


(シュポン!)
会場に集まった候補生達が一斉にシャンペンの栓を抜いた。飛び上がった栓のいくつかは天井に達したが、幸いなことに蛍光灯に被害はなかった。
「それでは! …艦隊司令レナード! お疲れさまーー!」
シンは開会を宣言すると同時にシャンペンをレナードに浴びせた。たちまちレナードにシャンペンシャワーが集中する。
そこへ、様子を見に来たロッジェスが現れた。
「お前ら、何をやっとるか」
「教官、これについては先ほど許可を頂いたはずですが…」
「きちんと全員にかけて回るように(にやり)」
その言葉を皮切りに、場内のあちこちでシャンペンの浴びせ合いが始まった
「おーい、シン、学生代表お疲れさ〜ん!」
「おわ、アデル! やりやがったな! お、マーリアもお疲れ!」
「やだやだぁぁぁ!!! 女の子にかけちゃダメ〜…って、みーちゃん、教官はやばいんじゃ…」
「きょうか〜ん、『全員に』って言いましたよね〜。教官も例外じゃないですよ〜。クックック(笑)」
「俺は出撃していない。勝利をその手で勝ち取った者達だけが歓びを分かち合う資格を…おい! 話は最後まで聞かんか……」
台詞が終わる前に、ロッジェスはシャンペンの集中砲火を浴びていた。ずぶ濡れになりながらもロッジェスは、勝利と生還の歓びに沸く候補生達を見ながら、今日だけは見逃してやることにした。


皆がシャンペンでずぶぬれになった後は、会場のあちこちに輪が出来上がり、シンはウェイターよろしくその間を駆け回っていた。
「よう、シン。えらい騒ぎだな」
「レイザー、ちょっと出遅れたな」
「遅れたついでに一休みしてくるよ。これは差し入れだ。ケーキと紅茶、それと香り付けのブランデーだ」
「サンキュ。真ん中のテーブルにでも置いておいてくれ」
ちなみに、紅茶より先にブランデーが空になったのは言うまでもない。


「シン〜、こっちにも持ってきて!」
「ほいほい」
アルコールの消費量が多いことを見越し、シンは多めに酒をもって、ミテレスやユリアの輪の中に加わる。
「やっとお酒が来ましたね」
「さあ、飲もう。ユリアは大ジョッキね(笑)」
アデルとミテレスは既に自分のグラスに好きな酒を注いでいる。
「ちょっと、ミテレスさん、私マイグラス持ってきてるから…」
「まま、そういわずに」
アデルは構わずに、ジョッキのほうになみなみとワインを注いだ。
「もう…グラスがあるって言ってるのに…」
そう言うとユリアはジョッキのワインを飲み干した。
「げ…」
ユリアの酒豪ぶりは知っているものの、目の当たりにして言葉を失う面々。
「はい♪ こんどはちゃんとこっちに注いでくださいね」
微笑んでマイグラスを差し出すユリア。顔色一つ変わっていない。
「さすがユリア…やるわね…」
「むう。何か恐ろしいことが起こりつつあるような…」
しかし、アデルの心配事はその「恐ろしいこと」ではなかった。
(それにしても、帰国するか亡命するか、どうしたほうがいいのかしら……)
小さくつぶやくユリア。アデルはそれを聞き逃さなかった。
「(平静を装っているようだが、やはり、あの命令には戸惑いを隠せない、か……)」
そのアデルも「あの命令」に揺れる渦中の人だった。
帰還したアデルを待っていたのは、国からの強制帰国命令であった。
彼の母国シャプトゥーラーだけでなく、ブルト=コッホ、そしてケネスリードからも同様の命令が発せられたことを知るまで、さほど時間はかからなかった。
多くの者は命令に従い、近日中にも学籍を抹消し帰国の途につくだろう。
だが、強制帰国命令という国のやり方に疑念を抱く者もいた。信念を捨てきれずにいる者もいた。彼等は亡命という選択肢に、心揺れていた。
アデルはユリアがその一人であることに気付いていた。
そしてアデル自身も、目指すもののためにいかなる道を選ぶべきかを、思案していた。
「(もっとも、既に身の振り方を決めている人もいるようですがね)」
そう言ったアデルの視線の先には、やや小柄な女性の候補生…マーリアの姿があった。
最初の一杯で顔を真っ赤にしているタカヒロを、酒盛りの輪へ引きずり込もうとしている。
「一人でいたってつまらないよ。みんなで楽しまなきゃ!」
「あの、僕はお酒飲めないから…ちょ、ちょっとぉ〜」
マーリアはタカヒロを祝勝会一番の激戦区、ユリアやシンの輪へと連れてきた…いや引っ張り込んだ。
シンのグラスをひったくるとタカヒロに渡し、自分は持ち込みのマイグラスに好物のカルヴァドスを注いでもらう。
「楽しもっ! タカヒロっ!」
既に酒の入っているマーリアは、タカヒロの手を取って、半ば強引にタカヒロに酒を飲ませた。それを見たシンは慌てて静止しようとする。
「あ、タカヒロ、それはアルコール度数90%のスピリタス…」
「はふぅ…あ、アルコール度60%オーバーはそのまま火焔瓶にできるんだよぉ……」
ひっくり返るタカヒロ。
「あれ? タカヒロ?? どうしたの?(ゆさゆさ)」
今ひとつ状況の飲み込めないマーリア
「あら、タカヒロさん倒れましたか…(^^;」
「おーい、衛生兵〜」
今ひとつ緊迫感に欠けるユリアとシン。
人一人倒れたところで、酔っぱらいの反応などこんなモンである。
「お〜ほしさ〜まぁ〜き〜らきらぁ〜〜(☆0☆)」
「よーし、膝枕してあげるね! 光栄に思うんだぞ、こんな美少女が膝枕してあげてるんだから」
倒れているタカヒロの頭を抱え、自分の膝へと持ってくる。
「美少女ねえ…」
ミテレスは異議があるらしい。
「ロリだけどな」
シンの台詞はもっと酷かった。
「いま、なんて言ったの? ねぇ、イワハラのシンちゃん???」
マーリアがシンをギロリと睨む。
「さぁて何かつまみでも作ってこようかなたしか食堂の台所が使えるんだよな」
「台詞に句読点が無いわよ」
聞こえないふりをするシン。ミテレスがすかさず突っ込む。
「あ、逃げる気?」
立ち上がろうとして、膝の上のタカヒロに気付く。
「あ、いけない。タカヒロが起きちゃう…」
マーリアが追いかけられないでいると、シンは本当に料理をするつもりらしく厨房へと向かっていった。
「うーん…」
「大丈夫、タカヒロ?」
声をかけ、額に手を当てる。その様子を見ていたミテレスは、ポケットから取り出したカメラで無造作に二人を写真に撮った。
「とりあえず、膝枕激写〜♪」
「あ、みーちゃんひどいよぉ」
「二人を追い込むネタにでも使ってやろうっと」
「ふーんだ、いいもーん。あたし今幸せだモン♪」
そう言うとマーリアは、タカヒロの頭を大事そうに抱え込んだ。
「やれやれ、重症だね、こりゃ(苦笑)」
もう一枚、シャッターを切るミテレス。
「ミテレスさん…そんなことしている暇があるんなら、209のドア直してよ(苦笑)」
「ああ、ユリア、ちょうど良かった。ちょっとこっち、いいかな?」
「どうしたの?」


ミテレスは人気のない廊下へと、ユリアを連れ出した。
「どうしたの? こんなところへ連れ出して・・・」
「知ってるわよ」
「え?」
「帰国命令。出てるんでしょ?」
「……ええ」
「どうするの?」
「……そんなの…すぐに答えなんか…」
「……マジェスに、来る気はある?」
「ええ?」
「多分、戦争になったら、ブルト=コッホの政治経済は全て軍部が掌握すると思う…マジメな話、あの国はユリアの性格とはあわないよ」
「確かに、このまま自国に帰ったとしても、不利な状況になりかねないのよね……」
「亡命申請の書類は、全部用意しておいたよ。当局の方にも話はつけてある。あとは…ユリアの気持ち次第だから」
書類をユリアへと手渡すと、それきりミテレスも沈黙する。
考え込むように目を閉じたユリアは、やがて決意の表情で書類にサインをした。
「…後悔、しないね?」
「ええ、こうするしかわたし自身を生かすことができないかもしれないから。このまま母国に戻ったとしても、わたしは行動を制限させられるだけのような可能性があるもの」
「あたしには親はいないから、良く解らないけど…もう会えなくなっちゃうかもしれないよ?」
「いいの、わたし、親元を飛び出した身だから…」
「そっか。じゃあ改めて。ようこそ、議長国マジェスへ。今は大変な時期だけど、力を合わせてがんばって行こうね」
「ありがとう、ミテレスさん…わたしを必要としてくれるところがあるなら、そこで才能を生かすことにするわ」
「それじゃ、今後の手続きについて、説明しておくね」
ミテレスは、ユリアの持つ書類の、ものすごく小さな文字で書かれている部分を指さした。
「ここを読むの?」
「読まなくたって良いんだよ、ちょっと移転してきた当初は税金が高いとか…顔写真入りの証明書の携帯が義務付けられてるとか…そんな事だよ」
「そうなんだ。でも、税金が高いってのは知らなかったわね。」
「高いというか、国民年金の支払いとかがあってね。その計算がややこしいんだよ。だから、払い込むときは『一旦私に』預けてね。やったげるからね(笑)」
「(ぼそっ)士官学校にいる間は、国民年金免除になるんだけどな…それに源泉徴収だから、いちいち支払いに行かなくてもいいんだけどな…」
「(ばか、余計な事言って!)ん、あ、今年から免除になるように法改正されたんだった。いやぁ、すっかり忘れてたよ。ん〜、そうだった、そうだった! …って、シン、アンタいつからそこにいたの?」
いつの間にか、両手にパスタの大皿を持ったシンが立っていた。
「さっきからいたんだけどな……ユリア、本当に、いいのか?」
「ええ。決めたわ」
「そうか…じゃ、ようこそ、マジェスへ。ユリアのためにとっておきの一本を開けようか」
「いえ、まずはブルト=コッホのワインをあけてしまわないとね」
「まったく、この飲んべどもが…ま、それじゃ、宴会に戻りますか。パスタ一皿、もってあげるよ♪」
シンの手からパスタの皿を取り上げると、そのまま自分の席へともっていってしまう。
「あ、こら、それみんなで分けるんだから…ったく…」
「ふふふ…」


そんなやりとりを、コウ・ウランは部屋の入り口の陰から伺っていた。
「ふむ…楽しくやっているみたいだな。戦死者も出なかったし、幸いだった…」
小さく、微笑む。
「しかし…俺の意志はこれで固まりつつあるな…。近いうちに教官を訪ねるとしよう」
コウは、そう呟いて、去っていった。彼もまた、決意の表情で。


「シンちゃん、おつまみ出来たぁ??(わくわく)」
「へい、おまち!」
「わーいっ!!!」
「…どっかの出前?(笑)」
マーリアやユリアの前に、パスタの大皿が置かれた。食堂から失敬したバジルとオリーブオイルで、ワインに良く合う味付けになっている。
「タカヒロ、イワハラちゃんがパスタ作ってきたから食べない???」
「う〜ん…」
ゆっくりと、タカヒロが体を起こした。
「うぅぅ…だからアルコール類はダメだって言ったのに。まだ頭がふらふらする…」
「大丈夫? お水いる? タカヒロ??」
「いや、水はいいよ…大丈夫……ありがとう」
タカヒロはマーリアの頭に手をやり、軽くなでてやった。
「え?……子供じゃないよぉ……」
マーリアはその仕草・・・憧れの男性からの子供扱いに、軽いショックを受けた様子だ。
だがタカヒロにしてみれば、マーリアに対しては完全に妹感覚なのである。
タカヒロのそのあたりの感覚に気付いたからこそ、マーリアにとっては辛かったのかも知れない。
だが、ミテレスはマーリアの言葉をストレートに受け取ったようだ。
「子供よ、十分」
シンも無言で頷く。
身も蓋もなかった。
「ふえーん、みんながいじめるよぉ、ゆりあぁ(泣)」
「泣きつかれても、何もできないわよ?(汗)」
「ふみ。ゆりあまで冷たい……」
「もう…この子ったら(汗)」
「まあまあ、これでも飲んで落ち着けよ」
マーリアにグラスを差し出すシン。
「何持ってきたの、今度は?」
「まあ、イッキにいっとけって」
「んー、まあ良いけどぉ」
グラスを一気に開けるマーリア。
「ちなみにそれスピリタスだから」
「へ? それを早く言ってよぉ〜〜〜〜〜〜。うきゅ〜〜〜〜〜」\(@∇@)/
さしものマーリアも、スピリタスのイッキには勝てなかった。
「よしよし、落ち着いたな」
「シン…あんたやり方がえげつないわね……」
「まあ良いじゃないかミテレス。少し静かに飲もうぜ」
「まあ、それもそうね」
「あなたも相当薄情よ、ミテレスさん……」
「そうでもないわよ。本人はタカヒロの膝枕でご満悦でしょ?」
マーリアは倒れるとき、ちゃっかりとタカヒロの膝枕に倒れこんでいたのだ。
「タカヒロぉ」
ゴロゴロと、猫のように甘えている。
「あの・・・僕はどうしたら……(汗)」
「ちょうど良いやタカヒロ。しばらくそうしててくれ。おとなしくなるから」
「え゛?あ゛ー………はぁ。(^^;;」
結局、膝枕をする側とされる側が入れ替わって、落ち着いた。


「にしても、いいかげん同じ酒ばかりで飽きてきましたね」
さすがに始まってから数時間がたつと、最初の勢いは失われ、彼らは静かに(あるいはだらだらと)酒を飲んでいた。
「アデルはワインばっかり飲んでるからだろ?せっかく蒸留酒とかも用意しておいたのに」
「シンの持ってきた酒はクセがあるやつばかりじゃないか。あとは原液のようなのとか」
「うーん…そうかぁ?」
そこへ、自室で休んでいたレイザーが戻ってきた。
「俺も少し持ってきたぞ」
レイザーは何本かの酒瓶を抱えていた。
「あれ? お前飲むんだっけ?」
「いや、ほとんど飲まないんだけどなぜか持ってる。何故かなあ(笑)」
「まあいいや、で、何を持ってきたんだ?」
シンがレイザーから酒瓶を受けとる。
「まず、ワインだろ…」
「床に同じ空き瓶が5本は転がってる」
アデルが床から瓶を拾い上げて言う。
「あとは、ウォッカと日本酒」
「好き嫌いの分かれる酒だなあ」
なんだかんだ言いつつ、結局これらの酒を飲み始める一同。
「そうだ…同じ酒ばかりで飽きたって言うなら、カクテルでも作ろうか?」
「へえ、そんなことができるの?」
ユリアはシンの提案に興味を示した。こちらの足元には、ワインの空き瓶がアデルらの三倍ほど並んでいた。
「昔ちょっとやってたから。マーリアが寝てるうちに、少しおとなしく飲むとしようぜ」
シンが言った矢先に、マーリアの声がした。
「え、何? カクテル?」
「マーリアもう復活してるぞ」
苦笑しながらレイザーが言う。
「…まあ、いいや。とりあえずシェイカー取りに行って来るから、その間に空いてるテーブルでカウンターでも作っててくれ」
シンが戻ってくるころには、即席のカウンターが出来上がっていた。シンは酒や果汁などの材料を集めて、吟味している。
「あ、マーリア、あそこのフルーツ持ってきてくれ」
「持ってきてくれ?」
「……持ってきてください」
「はい、よろしい♪」
マーリアがフルーツの皿を取りに行くと、そこではカレアがフルーツをつまんでいた。
「あれぇ、カレアちゃん、そんなところにいないでぇ、一緒に飲もうよぉ」
「えー。でもあたし飲めないから」
「そんなこと言わないのぉ。お祝いの席なんだからぁ、お酒飲まないとぉ」
「乾杯のときはちゃんと飲んだんだから、勘弁してよ……」
「座ってるだけでも良いじゃないですか。みんなといたほうがきっと楽しいですよ。あははー」
いつのまにかセシリアも加わり、カレアはフルーツの皿といっしょにカウンターへと連れてこられた。
「よぉ、カレア、いらっしゃい」
連れてこられたカレアをレイザーが迎える。彼は自分の持ってきたウォッカでソルティ・ドッグを頼んでいた。
「あ、みかんだ。貰おう……」
タカヒロは、フルーツの皿から缶詰みかんを見つけ、自分の皿へと移している。
「あの、私お酒飲めないから…」
「これならどうかな。お酒が苦手な人でも飲めると思うけど」
シンがシェイカーからグラスへとお酒を注ぐ。
「何か怖いんですけど、そのシェイカーの中身……」
「信用無いなあ。はい、マーリア、毒味」
グラスをマーリアのほうに差し出す。
「じゃ、私が試しに飲んでみるよ。カレアちゃんはその後で飲んでみたら。」
「お願いしますぅ」
マーリアはグラスを手に取ると、一気に空にしてしまった。
「んっ! バーテンさん、いいブレンドですぅ!! ぷはっ。」
「ど、どんな味だった?」
「口当たりが良くて飲みやすいよん。だいじょうび、だいじょうび。さ、カレアちゃんも行ってみよう」
カレアをけしかけるマーリア。
「でも、変なものとか入ってない?」
「じゃ、今度は原材料からみせるから」
「あ、イワハラちゃん、もう一杯ちょうだい」
「セシリアにもください〜」
シンはシェイカーを水で洗うと、数種類の果汁を計量し始めた。
「ベースは何を使っているんだ?」
シンがカクテルを作る様子を見ながら、レイザーが質問する。
「ラム?」
並んでいる蒸留酒の瓶を見ながら、アデルが聞いてみる。
「ラムだとクセを嫌う人がいるから、ウォッカで」
「なるほど」
「ほい、完成」
3つのグラスにカクテルを注ぐ。柑橘系の爽やかな香りが一瞬広がる。
「お酒が苦手な人でも飲みやすいように、柑橘系でまとめてみた。アルコール度数はだいぶ抑えたつもりだよ」
「美味しいですよ〜。とっても飲みやすいです〜っ」
「んっ! バーテンさん、いいブレンドですぅ!! ぷはっ。」
マーリアはまた一瞬で空にしていた。
「ん。確かに…美味しいけど……のどが痛いよぉ」
カレアはちびちびと口をつけている。
「アルコールなんて後は慣れだよ、慣れ」
「な、慣れなのかなぁ(^^;)」
「・・・非論理的っ。(ぼそっ)」
タカヒロがツッコんだ。
「ふぅ、やっぱりもう降参です……頭が痛いよぉ…」
結局、カレアはそのグラスを断念した。
「そりゃ、残念」
「もうちょっと甘いのを出してあげたら……?」
マーリアは、まだカレアに飲ませることをあきらめていないようだ。
「アルコールがだめみたいだからね。ソフトドリンクはこっちにあるよ」
「果汁でお願いします…。やっぱりアルコールはダメだわ」
「ほい、オレンジ」
「ありがと」
ジュースを渡すと、シンも自分のグラスに手をつける。
「飲めない人には飲ませない。お酒の一番基本的なマナーよね。うんうん」
きちんとマナーが守られていることに、ユリアは満足げだった。
「さあ、景気よくどんどん飲みましょうね」


さすがにこの時間になると、まだ宴会場にいるのはカウンターの面々だけになっていた。
シェイカーの振られる音と、静かな話し声。
気を利かせたのか、誰かが照明を薄暗くしていた。
皆が思い思いのグラスを手にしている。
ユリアがスコッチのグラスを傾けていると、携帯端末が呼び出し音をならした。
「あら?メールかしら…?」
見ると、差出人は『マジェス民部会』になっている。

『ブルト=コッホ国籍イブコーア上級士官候補生ユリア=フィリス。
 明日0時をもって亡命を許可し、マジェス国籍を与える。
 直ちに本国へ国籍抹消の手続きをとること。
                        マジェス民部会』

「あらー。もう亡命の認可が下りたのね〜。さっすが、ウチの国はこういうことには手が早いわ」
ミテレスがユリアの端末を覗き込みながら、呆れたとも感心したともつかない調子で言う。
「人の端末覗き込むのは、あまり行儀が良いとは言えないわよ?」
「でもこれで、ユリアも正式にマジェスの国民よね」
「そうね…これでよかったのかは分からないけど、とりあえず自分の選んだ道ですものね」
「あの…さっきから何の話を?」
相変わらずみかんを食べていたタカヒロが、横から恐る恐る会話に割り込む。
「ああ、ユリアね、マジェスに亡命するの。帰国命令に従うつもりないから」
「はい?!」
「マーリアもツァルスクレブトに亡命するよ〜」
「はいぃ?! あの……移民じゃなくて、亡命?」
二人が頷く。
「って事はツァルスはケネスと、コッホとマジェスとは完全に…うぅ〜…こ、この先どうなっちゃうんだぁぁ……(@0@)」
タカヒロは、再びダウンした。
「あれぇ、タカヒロぉ。なんで寝ちゃうのぉ。ねえねえ、起きてよぉ。まあいいや、膝枕してあげるっ♪」
「またですか」
アデルが苦笑する。
「さ、イワハラちゃん、もう一杯作って」
「おまえ全然ペース落ちないなぁ……いったい何杯目だ?」
横で、レイザーが少し呆れていた。
「まだ2〜3杯しか飲んでないよ、私。シンの入れるカクテルがおいしいから、おかわりせがんじゃっただけでさ」
「ふ〜ん……」
シンのカクテルがカウンターに置かれた瞬間、レイザーがそれを横から手に取った。
「あ、レイザー君、それあたしの……」
レイザーは、マーリアから離れたところにそのグラスを置く。
「何やってんだ?」
「いやさ、」
レイザーは、マーリアの膝枕のタカヒロを指差した。
「酒とタカヒロのどっちを取るか、見物じゃないか?」
「うー、いじわるだよぉ、レイザー君。私がタカヒロの傍から離れられるわけないじゃない……(きゃっ)」
マーリアは、一人で盛り上がっていた。
「でもさぁ、それだけ飲んだらアルコールの匂いきついだろうな…で、タカヒロ起きた時なんていうかなぁ…アルコールの匂いがきつい、言わば酔っ払いみたいな匂いつけたのが傍にいてさ(笑)」
ちょっと意地悪い口調で、レイザーが言う。
「え、そんなにお酒の匂いする?」
マーリアはくんくんと、自分で嗅いでみている。が、わからなかったらしい。
「うーん、わかんないや。でもそんなに匂ってるんだったら乙女としてぴんちね。えーと、お酒の匂いってどうやったら消せるんだったっけ?アデル、知ってる?」
「知りませんよ(苦笑)」
「タカヒロに聞きゃはっきりするわよ.試しに起こしてみようか?」
ミテレスがが、タカヒロを起こそうと肩に手をかけた。
「あ、駄目駄目っ! まだタカヒロ起こさないで。レディに身だしなみを整える時間くらいちょうだいよ(笑)」
「身だしなみはともかくとして、このままこの部屋で倒れられたままというわけにはいかないでしょ?部屋からお薬を取ってくるわね」
「あ、あたしも付き合う。ちょっと部屋に用事あるし」
ユリアとミテレスが席を立ち、部屋へと戻っていく。
「……それにしても、亡命ねぇ。俺達ザーディッシュの士官には帰国命令なんか出なかったからわからないけどさ、祖国に背いてまでそうする理由ってのは、いったい何なのかね」
グラスの氷が揺れるのをぼんやりと見つめながら、レイザーが呟いた。
「……人それぞれですよ」
カウンターに置いたグラスに目をやったまま、アデルが答える。
「人それぞれねぇ……」
「人それぞれですよ。それは、帰国を選ぶ人も、ね」
「ふーん……」
レイザーはアデルの答えにさして関心を持たなかったようだが、アデルもまたレイザーに答えていたわけではないようだった。
「…さて、もう何人かは、腹をくくったようですね。では、私もそうさせてもらいましょう」
グラスを手に取り、小声で呟く。
「すべては、無様にしいられし民の平安の為に」
アデルの手の中で、氷が小さく鳴った。


ユリアらが戻ってからもしばらくは飲みつづけていた面々だが、酔いが回ったのか、話すことがなくなったのか、次第に口数も少なくなっていった。
「そろそろ、おひらき?」
場の空気を、ユリアが言葉にした。
「……そうだな。じゃ、これが最後の一杯だ。オリジナルのカクテルを披露するよ」
そういうと、シンはアイスピックで氷を丹念に削りだした。
どことなく、神妙な表情だ。
「卒業まで、もう幾許も無い。俺達は、後悔のない選択の結果、もしかすると相交わることのない道を進むことになるかも知れない」
「もう……卒業なんだね………」
マーリアが寂しげに呟く。
「そうだね…もうこのメンツでバカやったりは出来なくなっちゃうんだよね……」
ミテレスもいつに無く神妙だった。
「これで、多くの人とはお別れ、か……。もうすぐ、いろいろな考えがあっての卒業や帰国をするわけだけど、一つづつ人それぞれの出来ることを重ねていくと、わたしたちの将来を一つの結論へ導くのかもしれない……。そうあることを願ってるわ……。私達は、未来を創っていかなければならないから」
祖国を捨ててまで卒業を選んだユリアの心中は複雑だった。
「…卒業ですか、早かったですね。普通の大学ならこの別れが永遠の別れ、になるとは限りませんが…。セシリア達は軍人ですからね、しかもこんな様な状況ですから、どうなるかは解りません」
セシリアは笑顔だった。寂しさの、その上に笑顔を乗せて。
「ですから、ここにみんながいたことの記念として、写真でも撮りませんか? きっと一生の思い出になりますよ。あははー」
「それなら、僕が撮るよ」
いつのまにか起き上がったタカヒロが、シャッターを押す役を買って出た。
「だめ〜。タカヒロは私と一緒に写るの!」
マーリアがタカヒロの腕を取る。
「イワハラちゃんが撮ればいいんだよ」
「俺は、いま手が離せないの!」
「タイマーが付いてますから、ちゃんとみんなで写れますよ〜」
「ふっ、この方がらしいですかね」
「何カッコつけてんのよ、アデル」
「ミテレスさんもうちょっと右側に寄ってください。あやや、行き過ぎです〜」
何とか、全員がファインダーに納まると、セシリアはセルフタイマーのスイッチを入れて自分も写真に入る。
フラッシュの中に、一瞬が刻まれた。
「うまく撮れてるといいですね〜」
再び、席につく。
しばらくシェイカーを振っていたシンが、その動きを止め、グラスにシェイカーの中の液体を注いでいく。青い輝きを帯びた、白い色。一等星の光を模したような色のカクテルだ。
「綺麗な色……」
マーリアがうっとりとしたように呟いた。
「お待たせしました。ポーラスター・イブコーアです」
「ポーラスターって?」
カレアが尋ねた。
「ポーラスター、っていう星があってね。昔、まだ人類が地球にいた頃、常に真北に輝く星があったんだ……
 船乗り達にとって、その北の空に輝く北極星は、方角を知る重要な星だった」
いつの間にか、シンの台詞に皆が耳を傾けていた。
「俺はここで成し遂げたことと、それを共に果たした仲間達をいつまでも誇りに思うよ。
 だから…進む方角は違えど、俺達にとってのポーラスター。それは、共有できると思う」
「……シンの言うように、私達の進む道はもう決して交わらないのかもしれない。
 でも、みんなと一緒にここで培った志は変わらない。変わらないと信じてる。
 それぞれ道は違っていても、同じ志を持ってる限り、私達の北極星を目指して歩んでいける……。そう信じてるよ」
マーリアがグラスを手に取った。
「それぞれがそれぞれの想いや決意で旅立って行く。それは悪いことじゃないし、確かに多少寂しいかもしれない。
 けれど、生きていればいつか何処かでまた巡り会う日もあるだろう。同じ想いや願いがある限り、いくら年月を重ねようときっと会える。いつか会える事を願って、【さよなら】は言わない」
レイザーも杯を取る。
「私達もこのカクテルが映す光のように輝いていけるよね? そうなるように頑張らなきゃね
 志はみんな一緒だよ。きっと進む道は違っても、同じものを目指して歩んでいけるよ」
マーリアの言葉に頷く者、黙ってグラスを手に取る者。それぞれがそれぞれの想いを映す杯が、薄暗い照明に静かに映る。
「皆の中で、イブコーアという今この瞬間が、これからも不変であることを願って……」
シンが、グラスを掲げた。
「私達の未来に……」
ユリアが続く。
「またみんなの道が交わることを祈って……」
セシリアも、グラスを掲げた。
「きっといつか、再び同じ道を歩ける事を祈って」
マーリアも願う。
「これでお別れじゃ、つまらないからね。再会の時がありますように」
ミテレスも。
「いつか会えるその日まで、お互いが無事でありますように……」
レイザーは、少し照れくさそうに。
「イブコーアの理念に」
アデルが、決意に満ちた表情で。
「故郷に」
タカヒロが、静かに。
「仲間に」
カレアも、加わる。



「乾杯」



グラスの音と皆の願いが、静かに唱和した。




時に、宇宙暦1728年。
奇しくも、平和条約締結から100年を迎えるこの年、イブコーアにそれぞれの夢を託した若者達がいた。
だが、堰を切られた運命の奔流は、彼等を否応無くひとつの時代へと押し流す。
人類が幾度となく迎えた、戦乱の時代。

運命を受け入れるのか。
運命に抗うのか。
夢にたどり着くのか。
道半ばで、力尽きるのか。

未だ見えぬ未来に、苦悩する若者達。
彼等の夢は、まだ遠くにあった。

(Fin)







































(翌朝)
「あ゛、頭が痛い……」
「眠い…もっと寝かせて……」
「き、気持ち悪……」
ロッジェスの前に醜態をさらす候補生達。
「まったく、この大馬鹿者どもが! 『明日からはまたしごくぞ』と言っておいたろうが!!」

兵どもが、夢の跡(合掌)

                                    執筆:ハゲタカ
                                    加筆・修正:GM(Ewig)

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